2017/02/20

『工芸とデザインの境目』 / ギュソロコンついでの金沢滞在記 2日目 part.1 



2日目は21世紀美術館しか行っていない。昼過ぎには帰ろうと思っていたので、朝ゆっくりして、歩いて(ホテルから10分ほど)ここへ来て、ゆっくりと見て、ゆっくりとお昼を食べるだけの、2日目でした。

2つの展覧会があって、どちらも見ました。まずはこちら。



『工芸とデザインの境目』







なんとも挑戦的なタイトルで、思わず引かれてしまいました。見事に釣られたって感じです。見た後から言うと。

両者が似ているもの、境目が曖昧であることは百も承知で、でも一度境目を探してみようという試みの展覧会です。

だけど、それでも、この内容で、その境目が分かるとは思えないし、手がかり、きっかけにもなるかどうか分かりません。境目なんて探そうとすること事体がナンセンスなんじゃないか、とすら思う展覧会でした。展示されている1つ1つが、なぜこれなのかが分からない。



工芸とデザインを見つめ直すことによって、それらの曖昧模糊とした境目を浮き彫りにする。それと同時に、最先端技術の発達などによって多様化が進む両者の新たな地平を考察する―――21世紀美術館HPより




だとしても、分からない。

わたしはどうしても「工芸」側の人間です。手仕事の側でしかなく、しかもまだ職人とも名乗れない新人です。自分で作る作品のデザインはするけれど、それはデザインというより絵を描くようなものです。

手仕事が工芸、機械がデザイン、というような単純な構図はもうどこにもありません。どちらも普遍的なところがあって、伝統的なところがあって、新時代を築けるもの(←大袈裟)でもある、と思っています。






「手と機械」をテーマにした部屋もあったけど、その写真はHPになかったです。ここは比較的、納得できる展示だった気がします。菊練りと3Dプリンタは両極端と言われればそんな気もするし。

漆器も展示されていました。一口に漆器と言っても、吹付けのウレタン塗装と本漆の手塗りとがあるので、「本物とは何か」という議論が今もあります。今だからこそ、盛んになっているのかもしれません。でもここで、手仕事の漆の展示品が琉球漆器の工程見本であることが解せない。金沢漆器でいいじゃん。なんで琉球? って見て最初に思ったんですよ。京都で漆を習って、越前漆器の産地に住んでいる身としては。どこでも大体一緒と言えば一緒なんですが。

でもキャプションに書いてあった「付加価値で勝る偽物の方がいいのではないか」って一文。それは書いてはいけない、ことだと思います。特に、反論ができない場所では。

優れた木地の上に、下地から研ぎ・塗りの工程を重ねる「本物」が持つ価値が、プラスチックの安価で、傷付きにくい、傷付いても平気、という理由に負けている。安価になる理由が付加価値になっている。漆器に携わっていない人の間で。それが、正直ちょっとショックでした。

何が価値であるかは、それを買う人、使う人が決めることであって、作り手やデザイナーが決めることじゃない。






個々の展示品に文句言ったって、仕方ないし、この展覧会は趣旨を受け止め、見た人が思考するってことが一番重要だと思います。

けれど、1957年のフィアット、真っ赤なタイプライター、コカコーラの瓶が、境目の黒い線よりもKOGEI寄りに置いてあることは違和感がある。行李と煙草盆、草鞋などとと同じ側にあることが。懐かしい、工芸的、という理由で、そこにあるらしいことが。

履物の線上に、KOGEI←―草鞋[ワラジ]――足袋(中心)――NIKE―→DESIGNがあったのが一番分からないかもしれない。どれも機能は違うはず。なんで草履じゃなくて草鞋なんだろう、と。






デザイン的には見栄えのいい展覧会だったと思う。とてもきれいに並んでいた。境目を探ろうとすること、KOGEI←→DESIGNというように線上に並べること、観点、これらはいいのかもしれない。ここが21世紀美術館であることも、いいことかもしれない。たくさんの人が見るから。境目がどこでも興味のない人が大勢見るから。

本筋、趣旨に関係のないところで「あれ? なんで?」とつまずく。それはつまり、全体的に、自分の経験や考え方に合わないのだろうと思います。考え方が合わないことはよくあることです。それだけで、この展覧会を否定することはできません。理解する、共感する人もいるかもしれないし。下手に工芸や手仕事に関わっていない人の方が素直に見れるのだろうと思います。

でもだからこそ、漆器のとこにあったキャプションがショックなのです。考え抜かれた手順とそれにかける手間が、否定されたような気がするから。



この展覧会を見るのなら、考える必要があります。鵜呑みにして、ここが境目だと思わないことが重要です。ここに並んでいる展示品は、ただのきっかけ、端緒すぎないのです。どこが、なにが、境目なのか、ということを考えるよりも、工芸とはなにか、デザインとはなにか、そういう方に視線を向ける方が、広がりがあるのではないでしょうか。



オススメはそれほどできませんが、3月20日までに21世紀美術館に行くのなら、覗いてもいいと思います。






この文章もあくまで感想であり、何かを促したり決めたりするものでもありません。補足までに。最後まで読んでくださって、ありがとうございます^^

覚書くらいのつもりで書いていたら、あっという間にできちゃった。語りたかったんだね、わたし、と思いつつUPします。


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