2015/10/18

『没後30年 鴨居玲展 踊り候え』 於:石川県立美術館





シルバーウィークに行ってきました。随分と書くのが遅くなってしまいましたが、とても良い展覧会だったので、書いておきます。

金沢ではまもなく終了ですが、次は伊丹(大阪)に行きます。



《1982年 私》 1982年

わたしが鴨居さんのことを知ったのはテレビ(BSでやってる、ぶらぶらと美術館に行くやつ)で、作品が紹介されたことでした。これだったかどうかはよく覚えてませんが、これも見て、とても印象に残った作品です。

残らざるを得ない、という方がいいかな。中央に真っ白なキャンバスと、その前に座るうつろな目をした画家。周りには、画家がこれまで描いてきた人々が群がる。こんなにたくさんのものを描いてきたのに、この時の画家は何1つ、描けない。

とても悲しい絵だと思います。見れば見るほど、泣きそうになるくらい悲しいです。

一番、好きな絵です。好きというと語弊があって、ニュアンスは全然違うのですが、気になるというか、見ていられるというか、悲しくなってしまうので深く考えるとやばいんですが、網膜に焼き付いて離れない、そんな絵です。



《赤い老人》 1963年

石川県出身(諸説あり)の画家で、宮本三郎さんに師事、パリ、スペイン、南米などを経て、神戸に移り住みます。その地で、自ら57年の生涯を閉じました。

これは初期の作品。パリにいた頃。この時のパリは抽象画全盛期でした。具象で何かを表現したいとあがく鴨居さん自身の姿と重なる、とキャプションには書いてありました。

ものすごく前のめりで、普通なら倒れてしまいそうなのに、太い足が不思議と力強いです。

鴨居さんは、師匠である宮本さんから、「なぜ描くのか、何を描くのか、常に問いかけよ」と言われました。その言葉通り、これらを常に問いかけ、だからこそ、片手間に絵を描くということができなかったんだと思います。

自分が何を描くべきか、模索していたからこそ、それとは明らかに違う技法、思想が全盛のパリにあってもがくような、あがくような絵が生まれたのではないでしょうか。



《静止した時》 1968年

安井賞を受賞した作品、ではないもう1つの似たような絵の方。受賞作品は東博所蔵で、こちらは石美所蔵です。

人の内面が滲み出て、それが静止して、目に見えるような画面です。


《教会》 1978年

人物を描き続けた鴨居さんが唯一選んだ人以外のモティーフが「教会」です。キリスト教徒ではなかったと思いますが、祈りとか救いとかそういうのに興味があったのかな、なんて勝手な想像です。

人物を描く理由は、人物以外興味が無いから、だそうです。

教会の絵は、たくさんあって、たいがいが宙に浮いています。そして、影が十字架になっています。



《望郷を歌う (故高英洋に)》 1981年

神戸時代の絵。友人の画家の奥さんが歌った"アリラン"に感銘を受けて、この絵を描いたそうです。

白く浮かび上がり、手を掲げて、力強く歌う姿。とてもすばらしい絵で、声が聴こえてきそうです。



世界各国で創作活動を続けて、その土地土地で、独自のモティーフを見つけてきた鴨居さんは、日本に戻って、新しいモティーフを見つけようとしましたが、なかなかしっくりと来るものは見つけられませんでした。

モティーフの喪失から、画業の行き詰まり、そこから焦りが生まれ、自傷行為に走り、とうとう自殺にまで至ります。

《望郷を歌う》や自画像の傑作、また《1982年 私》など、傑作は生まれましたが、自身にとってみれば、過去の作品の焼き直しでしかないと感じていたようです。



展示会場に鴨居さんのインタビューでの言葉がありました。

「自分は絵を描く人だろうか、という自問はとてもつらい。そんな時、パッと絵ができると嬉しいが、次の日、本当にそれで良かったのか、忍び足で近づくのは本当に恐ろしい」



受賞歴もあり、画家として認められた人であっても、自分は「絵を描く人」かどうかを思い悩む、というのは、言葉の通り、とても恐ろしいものだと思います。



《蛾》 1976年



わたしは絵を描くのを一度止めました。自分は「作品を作る人」ではないと感じたからです。それはとても悲しいことでしたが、描かないことで楽になったこともあるし、寂しさが募ることも、両方ありました。

離れれば、その時間が長くなるほど、「作品を作る」ということに対して、欲求が生まれてきました。

失ってから気づく、ということがわたしは嫌いです。まだ手元にある内に、まだ引き返せる内に気づきたい。

だから、今は「ものづくり」の仕事について、がんばっています。漆も仕事ではないですが、余暇を使い、細々と続けています。

ですが、未だに、わたしは「作品を作る人」なのかどうか、確信はありません。違うのではないか、と感じることも多いです。それでも、作りたいと思うものがあるから、続けるのです。

だから、鴨居さんの言葉が、作品が、心に染みて、悲しいのです。



絵だけを知っていた時は、怖い絵だと思っていたんですが、展覧会を見て、よく知った後は、寂しいような絵だと感じるようになりました。強く惹きつけられます。

とても良い展覧会です。初めて鴨居作品を知る人にはとてもいい機会です。このような大規模な回顧展は滅多にないものなので、とてもおすすめの展覧会です^^


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