2017/12/01

『有元利夫展―物語をつむぐ』 於:大山崎山荘美術館



アサヒビールが持つ、JR山崎駅から徒歩10分ほどのところにある名前の通り、元々は山荘だった美術館です。古いお屋敷をほぼそのままに利用していて、通路を通っていく新設の展示室が2つあり、広いお庭もあり、入口から見た限りよりもけっこう大きな美術館です。

結構近所の美術館なので、いつ行こうかな~とのんびりしてると会期が終わっちゃった、なんてこともよくある(ご近所あるある?)のですが、一方的に好きなブロガーさんがおすすめされていたので、GOT7のライブで帰省した際の中日に行ってきました。



photo : tana

お天気も良くて、寒くもなくて、紅葉もきれいで、とっても良いおでかけになりました。ただ、予想以上に人が多くてびっくりしました。この美術館で、こんなに人がひしめき合っているのを初めて見ました。展示解説が始まる時間だったので、ちょっとタイミングが悪かったのかもしれません。午前中に行けばよかったと思いつつ、仕方ないですね。



〈ささやかな出来事やささやかなキッカケを大事に大胆につむぐ〉

キャプションに書いてあった、有元さんの言葉です。単に絵を描くために大事なこと、というだけではなく、自分が生み出す作品の中にどのような物語を持たせるのか、描きこむのか、そのために必要なのは決して大きな劇的な出来事などではなく、ささやかな日常のほんの小さな事やきっかけである、ということなのかな、と思いました。



《花降る日》 1977年

有元さんはマチエール(質感・肌合い)を大事にしていました。キャプションにはタイトルと所蔵元しか書いていなくて、その絵が油彩なのか日本画なのかキャンバスなのか板や布なのかよく分からなかったので、聞いてみました。

キャンバスに描いていて、油絵具や岩絵具、アクリル絵具などを様々に組み合わせて、表面を加工して、フレスコ画のように見せているとのこと。

油絵なら油彩、日本画なら紙本(絹本)彩色など、どれか1つに表現できない描き方をしているのですね。

古めかしいような画面、どうやって描いているのか分からない、独特の表現、マチエールに拘っていた人らしい複雑な地塗り。

有元さんの絵は、名前を知らないまでも、誰もがどこかで見たことがあると思います。装幀などにもよく使用されている印象です。だけど、有元さんの絵は実際に生で見るべきものだと、実際に生で見て強く思いました。印刷では伝わらない、決して伝えられない色と凹凸と印象が、生で見ることでビシビシ伝わってきます。



《花咲く頃》 1982年

花束を持った女性、金色の背景、大きな木。黒い所には細かく描きこまれた地があり、これは実際に見ないと分からないのではないかな、と思います。単順な構図だけど、その地や色彩や描き込みは決して単純ではなく、驚くほど複雑です。



有元さんの絵には共通するモチーフや特徴がたくさんあります。

まずは女性。太い腕、太い首に寸胴で、裸かロングスカートを履いています。そして、人物はどれも手元や指の描き込みが曖昧です。他の所はしつこいくらい重ね塗りしたり、塗っては消して削ってなどをしたりしているのに、手元だけは絵具も薄くて、指がはっきり見えません。音を具現かした玉や、花などを持っていることも多いのに、それが少し不思議でした。絵を描くのが下手な漫画家なんかはいますが、有元さんはどうなのでしょう。

あとは花、影、丸窓、布などでしょうか。昼よりは夜、開けた場所よりは森もしくは屋内などが多い印象です。机には碁盤の目が書かれています。音楽好きなのに、五線譜ではないのだな、と思いながら見ていました。そういうものに何か寓意があるのかもしれませんが、ギャラリートークでも特に触れられていないように感じました。静かにゆっくり見たいので、ギャラリートークなどは参加しませんが、ちょうどかち合ってしまって、人が多くて難儀しました。



《ロンド》 1982年

有元さんは音楽好きで、タイトルにもモチーフにも音楽はよく使用されています。チラシにも使用されている《室内楽》もそれに似ている《7つの音》も、玉を音に見立てているそうです。

この作品はその名も《ロンド》なので、音楽その物を女性たちの動きで表しているのかな、と思います。ものすごく高く飛んでます。その飛んでる女性の周囲には砂子(金粉)が蒔いてあります。これも画像ではなく、本物でなければ、見えないものです。

音楽も似ているのかもしれません。聞かなければ分からない。楽譜を見ただけでは伝わらないものが、音にはあります。



《テアトル》 1981年

リコーダーを入れる箱とか、楽譜とか、そういうものも作っています。あとは篆刻、脱活乾漆、陶器、ブロンズもしています。これはブロンズ。展示されていた正面は反対側でした。ちょっと不思議な作品ですね。タイトルはフランス語で「劇場」を意味しますが、その意味を調べて知ったところで、やっぱり不思議な作品であることには変わりませんでした。



《無題(陶器)》という作品が気に入りましたが、画像が見つけられなくて残念です。陶器は広がったスカートに割れがあったのですが、それがヒダのように見えて、とっても効果的な入り方だったので、もしかしてわざとなのかな、などと思いました。ちなみに陶器は唐津焼だそうです。



マチエールに拘るあまり、様々な技法も試していたようで、漆までやっているのはびっくりです。乾漆って面倒な技法なんですがどの程度のレベルでやっていたのでしょうか。乾漆として展示されていたのは、抜いた中身っぽい木の彫り物だったので、どこら辺が漆なのか乾漆なのかよく分かりませんでした。

漆と言えば、ということでもないのですが、《花火の日》という作品の白い所は、ちょうど漆の研ぎ出しと似たような感じでした。重ね塗りして後に表面を削って、白を出したのかなと思います。

《ロンド》で見た金粉が蒔かれているのも、日本画や漆器の技法のようです。様々な手法を駆使して、1つの画面や作品を作り上げる。その最初は「ささやかな」こと。奥が深そうです。今まで絵を見たことがある、という程度の認識でしかなかったですが、今回展覧会を見たことで、好きな画家の1人になりました。芸術家と言った方がいいですね。



《厳格なカノン》 1980年

モデルは奥さんだそうです。解説を傍から聞いていました。布がよく出てくるな、と思います。これもそうだし、《花降る日》のように手に持っていたり、碁盤の目のテーブルクロスとかも。雲の形も独特で、梯子の行き先も不安で、空へ登っていけるような、どこか得体の知れない場所に連れて行かれるような、布の向こう側が気になります。うっすらと梯子が続いているのは描かれているのですが、それ以上は見えません。



photo : tana

photo : tana

この美術館は何度来ても何度も写真を撮ってしまいます。昔は山手館もなかったし、いつ来てもほとんど誰もいなくて、きれいなお屋敷独り占め気分も味わえるお気に入りの場所でした。でした、って今もお気に入りには違いありません。

人が多すぎて、喫茶室に入れなかったのが残念です。リーガロイヤルとのコラボスイーツ、いつもすごく美味しいので、毎回いただいていたのですが、今回は諦めました。



有元利夫さんは絵しか見たことがなかったので、今回いろいろなものを見ることができて楽しかったです^^

とってもすてきな展覧会でした。お屋敷も素敵なので是非行ってみてください。展示室内のソファは座ることができますから、ふかふかで動きたくなくなるくらいの革張りソファで休憩しながら見てください。2階喫茶室側のテラスからの眺めも良いですよ。山荘というだけあって、見晴らしがいいです。お庭も必見です。滝もあるし、芝生もあるし、大きなウサギさん(ブロンズ)もいますよ。



photo : tana

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