チラシにもなっている《ボール》という絵は本物も画像も何度か見たことがありますが、ヴァロットンという画家そのもののことを全然知らなかったので、なんとなく気になって、今回用事ついでの美術館めぐりで行くことにしました。
ヴァロットンの回顧展は日本では初ということです。世界巡回展なので、日本では東京だけです。そして東京でだけ、三菱一号館美術館(以下、一号館)が所蔵する版画コレクションも展示されます。187点も所蔵しているそうです。
《20歳の自画像》 1885年 |
スイス出身で、画家になるために16歳でパリに出てきた人です。保守的な家庭に育ったそうで、パリはさぞ刺激的な街であったろうとのことです(byぶら美)。
質感もしっかり表現されていて、筆致も確かで、とても基本的な実力がある画家ということがわかります。
《休息》 1911年 |
筆跡が目立たず、マットな肌質。だからでしょうか、無機質な感じがしました。休息しているようには見えずに、何かを待ってる感じ?
タイトルと絵から受ける印象が乖離していることがたびたびありました。
《ワルツ》 1893年 |
人が宙に浮いているような不思議な作品。右下の女性の顔がふわふわした画面を引き締めていますが、インパクト大です。
自画像など初期の作品から受けた確かな筆致と厳格な画面というものは、途中からほとんど見られなくなります。けど、根底にはそれがあるので、不思議な説得力を持つ絵になるんだと思いました。
《ボール》も今まで何度か見ていて、特に何も感想のない絵でしたが、ヴァロットンのことや絵のストーリーを知ると、少し不穏で妖しい絵に見えてきます。
すべての作品に、何か裏があるのではないかと疑ってしまいます。
《月の光》 1894年 |
ヴァロットンはナビ派に分類される画家です。「外国人のナビ」と呼ばれていたそうです。この絵は、ナビ派の装飾性と北方のロマン主義的伝統が融合した画面構成をしているそうです(byキャプション)。
まぁそんなことを言われても、ナビ派もロマン主義もよく分からないので、単純に月の絵が好きなのと、川に映る対称性がとてもきれいだと思って、イチオシのお気に入りです^^
《白い砂浜、ヴァイス》 1913年 |
これもお気に入りの1枚。よく見るとなんか変な気もしますが、そこは少し置いといて^^; 色がくっきり分かれていて、料紙のようにきれいだと思いました。
版画、《アンティミテ》シリーズより《お金》(左)、《勝利》(右)です。「アンティミテ」は「親密さ」という意味だそうです。お金が関わる親密さって…。勝ち負けのある親密さって…。このシリーズには、そんな感じばかりです。どう「親密」なのか、なかなか理解し難いような絵です。
構図や白黒のバランスは超すてきです。
不思議で不穏な雰囲気が漂う絵ばかりですが、そこが魅力になっていて、お気に入りの絵がたくさん見つかりました。
あといくつかお気に入りはありますが、あと2枚、気に入ったとかは関係なく、インパクト激大の絵を貼っておきます。
《貞節なシュザンヌ》 (1922年) |
タイトルになっているモチーフは、旧約聖書に記されている、《スザンヌと老人たち》という水浴を好色な老人たちに覗き見されるシュザンヌさんのお話です。
この絵はどう見ても、貞節な印象は女性からは受けませんね。女性は娼婦で、逆に男たちを手玉に取るような女性で、神話のパロディになっています。
(山田)五郎さん曰く、「てかりに悪意を感じるね」(byぶら美)だそうですw 女性の書き方にも充分悪意を感じます。騙す気満々な感じ。
《憎悪》 (1908年) |
これもすごい絵です。とても夫婦の肖像画とは思えません。しかもアダムとイブのパロディです。この距離感と、奥さんのものすごい怒りの顔。多分、奥さんはこれでも怒りを抑えているんだと思いますが、隠しきれてないです。
旦那も旦那で、奥さんを見下すような位置にいて、バカにしているようです。
きちんと見たのは初めてでしたが、とても新鮮に見ることができました。もともと実力のある画家なので、どの絵も筆使いや色使いはきれいですが、モチーフや描き方には不穏さや怪しさが漂い、見ていて、なんだかいけない場面を覗き見てしまったような、そんな不安にかられてしまいました。
ヴァロットンさん自身に少し(大分?)女性不信のけがあるようなので、女性の描き方も刺があるものが多いです。その割に女性の方をたくさん描いているので、相反する気持ちがあったのかなと感じました。
いろんなイメージの多様な絵があり、いろんな引き出しというか顔があるのかとも思いました。
一号館はとても好きな美術館で、東京へ行くたびに通ってるようなものです。併設のカフェの展覧会タイアップメニューも楽しみの1つなんですが、今回は食べることができませんでした。
朝寝坊+『故宮展』で思いの外時間を使ってしまったので、悠長にランチしてたら次の『オルセー展』を1時間程度しか見れなくなってしまうので、残念ながら諦めることにしました。
豚さんがとてもおいしそうで、ちょっと心残り…。
タイアップメニューはこちら → http://mimt.jp/vallotton/cafe.html
0 件のコメント:
コメントを投稿