2017/06/30

『神の宝の玉手箱』 於:サントリー美術館



24日に行ってきました。

サントリー美術館が唯一所蔵する国宝〈浮線陵螺鈿蒔絵手箱〉の修理後初公開の展覧会です。美術館が東京ミッドタウンに移転後10年を記念する展覧会(第2弾)でもあります。

これに行った理由はただ1つ、国宝になるほどの螺鈿蒔絵手箱を見るためです。わたしは漆を勉強して、現在ほそぼそと自分で作品作りをしていますので、蒔絵とか螺鈿とか、漆器関連の展覧会は行くようにしています。どんなジャンルであっても、何かを作る場合、先人たちの素晴らしい作品を見ることは、必ず自分の糧、力量(の一部)になります。

国宝1点とそれ以外、かと思っていましたが、そこはサントリー美術館を舐めてました。すみません、ってお詫びしたいくらい、すばらしい漆器手箱がいっぱい展示されていて、「手箱」とは、「玉手箱」とは、「神宝」とは、そういうことが理解できるすばらしい展覧会でした!



国宝 〈浮線綾螺鈿蒔絵手箱〉 13世紀 鎌倉時代

こちらが今回のメインです。「浮線綾」というのが箱全体にある文様のことです。「螺鈿」はアワビや白蝶などの貝を用いた技法、「蒔絵」は金粉や銀粉を撒く技法のことです。漆器の伝世品というのは名前を見ればどのような技法なのか分かることが多いです。

一番上の画像、バナーの画像なんですが、そこに「政子も魅了!?」って書いてありますね。これは、北条政子が蒔絵手箱を7つ愛用していたと伝わっているからです。そしてこの〈浮線綾〉がその1つである、と箱書きにあるそうです。ただ箱は江戸のものなので、真偽は不明です。でも、最初の部屋に手箱がずらっと展示してあるのですが、それは、本当に7つあったなら、それはどれだろうな、と学芸員がピックアップしてみたそうです。室町とか、時代が違うものがあるから、本当は違うんだけど、でもそういう試みはすばらしいです。



貝以外のところは、金箔を貼っているのではなく、金粉を隙間もムラもなくびっしりと蒔き詰めた「沃懸地(いかけじ)」という技法です。金箔貼ったみたいにすごく金がきれいです。

蒔絵ってけっこう難しいんですよね。本当に撒くように粉を落としていくのですが、下手だとムラができちゃう。漆を薄く塗った上に蒔きますが、その漆を塗る段階からムラなく薄く、適度に乾いた時に蒔かないといけません。

子供からお年寄りにまで対応した「やさしい解説」というものにちょうど参加することができて、そこで説明がありました。螺鈿、貝の部分は、全体で13パーツに分かれているそうです。貝の厚みが0.5、0.6くらいと言っていたので、中摺り(漢字があっているか自信がない)。貝は厚いほど、切るのが難しい! 今は糸鋸で切りますが、昔はどうしていたんでしょう。螺鈿好きだけど、わたしがいつも使うのは、針で切ることができるくらいの薄貝(0.2、3 mm)です。

〈浮線綾螺鈿蒔絵手箱〉 蓋裏

21日~26日限定で蓋裏が展示されていました。箱の中も見れる。布が貼ってあります。たった5日間限定、めちゃラッキー! 縁までいろいろな花が描かれています。これも蒔絵ですね。繊細で細かくリアルに描かれていて、とてもすばらしいです。



手箱というのは化粧道具などを入れる入れ物の箱、玉手箱となれば、装飾された最高級の漆芸品で、実用ではなく神社などに宝物として奉納されることが多かったそうです。

宝物として大切に保管され伝世してきたものなので、痩せてヒビが少しあったとしても、少しだけだし、とてもきれいないものでした。

面白いのは、奉納する人物の身分や奉納先の神格によって、技法に差がつけられているらしいこと。細かいことまでメモってないし、覚えていませんが、沃懸地は最高の技法。身分の高い人が神格の高い神宮などへ奉納したもので、梨地は下の方の技法でした。それでも神宝として神さまに奉納するのだから、すばらしい技術で技法で作品であることには違いないですが、そうした格差が設けられていたことが分かるということが、とても興味深いです。



国宝 〈桐蒔絵手箱および内容品〉 1390年頃 南北朝時代

神宝として奉納されるものであっても、中身はちゃんと化粧道具です。これら中身も最高技術の漆芸品です。奉納されるものだからこそ、伝統にのっとってちゃんと全部入れるということも考えられます。こちらは「熊野速玉大社古神宝」の1つ。この「熊野速玉大社古神宝」と呼ばれるものは、まるごと国宝指定されているようです。そりゃそうでしょうね。14世紀、宮中で使用されていた道具類の最高級品がまとめて伝世されているなんて、そうそうありません。同じように展示されていた「熱田神宮古神宝類」というのは重要文化財なので(←それでもすごい。比較は本来無意味)、熊野速玉大社に伝世した品々の質量の重要度、充実度がどっか違うんでしょう。



〈類聚雑要抄指図巻 第六巻〉 19世紀 江戸時代

宮中で用いられる道具類や配置などを事細かに指図した図の巻物、その第六巻。手箱の中身が描かれた部分が展示されていました。その中で、「櫛二十枚」って書いてあるんです。多くない? って正直思いました。櫛って大事なものだったのかな、そんなにたくさん一度に使うのかな、とちょっと不思議です。




国宝 〈秋野鹿蒔絵手箱〉 13世紀 鎌倉時代

出雲大社が所蔵する国宝の蒔絵手箱です。今回の展覧会で一番気に入った作品です。298個を用いて、秋の野に遊ぶ鹿の親子、小鳥などを描いているそうです。数えたんだね、と思いながら。13世紀に出雲大社に奉納されたものと、ちょうど昭和と平成の変わり目くらいの時期に、螺鈿の人間国宝、北村昭斎氏が再現した復元品、どちらも展示されています。貝の形が全部違うそうです。


こちらは展示の様子の写真。古い方の展示は、一番最初の部屋です。いきなりどどんと美しい漆器がお出迎えしてくれて、びっくりして、その部屋だけ何往復もしてしまいました。



復元品は3階と2階の展示室の間のスペースにトピック展示として展示されています。復元、模造と侮ってはいけません。伝統工芸品の場合、復元することはとても難しいのです。造れる技術を持っている人がそもそも少ないし、最高級品として作られたものなのだから、現代においてもそうでなくてはならないのです。何百年昔から伝わっているものだって、とてもすごいしきれいだし、すごくいいんだけど、新しいものはピカピカでとってもきれいなのです。

古いものだってうっとりするくらいきれいだったのに、新しい人間国宝が造ったものとなると、それはもう美しいのです。

14世紀にそれだけの技術があったこともすばらしいことですが、それが現代にまで伝わり、模造することができる、より良い水準で再現することができる、ということがすばらしいことです。



ここに、今は本物は失われたけれど、詳細を描いた絵図から再現された〈雛菊螺鈿蒔絵手箱〉も展示されていました。大正3年(植松包美氏作)、昭和8~11年(北村昭斎氏作)、それぞれに再現されたものが2種類。これと、再現の元になった絵図も。この3つを見比べてみたら、すごく面白かったです。大正3年の方は内容品も一緒に再現されています。昭和のものの方が繊細な感じがしました。絵にそっくりなのはこちらです。豪華さは大正の方かな? 手箱と同じ時に作られたと言われている硯箱が鶴岡八幡宮に伝わっていて、大正の方はそれに似せているというか、それも参考にしたのだろうと思われます。


この画像は硯箱の方なので、今回の展覧会にはもちろんないし、関係ないっちゃないんですが、図像の参考に。かわいくて、きれいです。手箱と硯箱、セットだったんだろうなと思うくらい、絵はそっくりです。



重要文化財 〈菊蒔絵手箱〉 14世紀 南北朝~室町時代

こちらも最初の部屋に展示されている手箱です。金が散りばめられているような、蒔絵以外のところは梨地です。沃懸地よりランクが下に見られていたって、これもとってもすてきな技法です。むしろわたしは、梨地が好きです(←どうでもいい)。




美術館学芸員へのインタビューです。面白いし、展示を見る上で参考になります。



とんでもない充実度溢れる展覧会でした。最近、漆器の展覧会ってあまりないですが、これほどまでにたくさん、しかも最高級の漆器を一同に見られる展覧会もありません。手箱や神宝にしぼった所も見やすく分かりやすい所以だと感じました。

漆器、漆芸品というものが、どれほど様々な表情を見せてくれるのか、どれほど多彩な技法があるのか。もちろん、「きれいだな、すごいな」と思って見るのもいいですが、どうやって描いたのだろう、とか、どんな思いを込めて奉納したのだろう、とか、そんなことも考えながら見たら、より豊かな感覚を受けることができるのではないかと思いました。

きれいなものを見に、行ってみてください! おすすめです^^


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